日曜インタビュー釧路市

釧路地区酪農対策協議会会長 武藤清隆さん

 5000㌧の生乳廃棄が危惧された年末年始は乗り切ったものの、学校が休みになる年度末から再び生乳廃棄の恐れが出ている。酪農関係者は「前回より状況は厳しい」と危機感を募らせるが、生乳の一大生産地である根釧地域にとってどのような影響が心配されるのか、釧路地区酪農対策協議会の武藤清隆会長に聞いた。(聞き手・荒井純)

 6月まで状況厳しく

 ―年度末も生乳廃棄の恐れが出ています。なぜですか。

 武藤これから暖かくなるにつれ生乳生産量が増えていきますが、コロナ禍で飲食店向けなど業務用需要が落ちているところで小中学校が春休みになり、1日に1800㌧の給食用需要がなくなります。そのため乳業工場の処理能力を超える可能性があり、1万㌧以上の生乳廃棄になるのではと心配されています。放牧が始まると生産量はさらに増え、5月は連休もあります。6月ごろまで需給バランスは厳しいと見ています。

 ―年末年始は5000㌧の廃棄を回避しました。

 武藤生産者が搾る量を抑えたり工場がフル稼働したりしましたが、消費者の皆さんに牛乳を応援していただいたのが大きかったです。先日わかちあい釧路という市民団体が生活困窮者支援で牛乳券を配布しているのを知り、生産者としても何かできないかと思い釧路地区酪対協として牛乳券20万円分を贈呈しました。岸田首相が危機感を持ってコメントされたのもインパクトが大きかったと思います。

 ―生乳廃棄は生産者にとってどのような意味を持ちますか。

 酪農基盤の弱体化に

 武藤365日、朝早くから夜まで必死になって搾った牛乳が廃棄となれば生産者にとってショックです。加えて心配しているのは、廃棄するなら安く提供できないかという話になることです。牛乳はかつてスーパーで安売りの目玉にされていましたが、生産者がある程度利益を確保できなければ再生産ができません。消費者のご理解をいただき少しずつ利益の出る適正な価格帯に戻していきましたが、10年近くかかりました。酪農を継続できない生産者が増えていけば酪農基盤の弱体化が進みます。

 ―牛乳の一大産地である根釧へはどのような影響が考えられますか。

 武藤酪農は裾野が広く、飼料や生乳を運ぶトラックなど多くの産業に影響があります。牛は乳頭1本で4人の生活を支えていると言われます。乳頭は4本あるので、1頭で16人です。地域で生活できなくなれば人が集まらなくなり、店もなくなります。しっかりした酪農基盤があることで地域経済が回ります。

 ―消費者に向けて一言。 武藤常日頃われわれの窮状を理解し消費拡大に協力していただき心より感謝申し上げます。今後も消費者の皆さんのニーズに合わせ安心・安全・安定供給に努め、食料安全保障、食料自給率向上のための基盤整備を図っていきますので、ご協力をお願いします。

 むとう・きよたか 鶴居村で酪農を営み、2013年5月に鶴居村と白糠町、釧路市音別をエリアとする釧路丹頂農協の組合長に就任。18年7月からは釧路管内7農協でつくる釧路地区酪農対策協議会の会長を務める。1956年生まれ、65歳。

[写真/「年末年始は消費者の応援のおかげで乗り越えられた」と感謝を表す武藤会長 ]


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