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縄文時代の釧路 寒冷化の影響 日大教授、イルカの骨解析 捕鯨に空白期【釧路市】

 日本大学生物資源学部の岸田拓士教授らの研究グループは、釧路市内の遺跡から出土したイルカの骨のDNA解析により、縄文時代に釧路地方で行われていた捕鯨が約4200年前に一度終わり、約1000年後に再開した時には遺伝的に異なるグループに入れ替わっていたことが分かったと発表した。世界規模で起こった急速な寒冷化が影響した可能性があるという。釧路市立博物館の澤田恭平学芸員が共著者として参加した研究論文が、英国王立協会の「BiologyLetters」に1月8日付で掲載された。(荒井純)

 古代の生物標本から抽出したDNAの研究は陸上動物では多く行われているが、海中の生物は骨が残りにくいため少ない。そこで研究グループは、日本沿岸で先史時代のイルカなど海棲哺乳類の骨が大量に出土していることに着目。時代の移り変わりに伴うイルカ集団の変化を解明するため、大規模な捕鯨遺跡であり、寒冷地でDNAが残っていることが期待できる釧路市の東釧路貝塚(約5000年前、縄文前期~中期)と幣舞遺跡(約2500年前、縄文晩期~続縄文)など3地域6地点の遺跡を調査した。

 他の生物の分子が物理的に混入しない特別な研究室でイルカの骨からDNAを抽出し、塩基配列の解読や放射性炭素年代測定などを行った。その結果、釧路の2遺跡ではカマイルカとイシイルカ、ネズミイルカの3種類が確認されたが、両遺跡は地理的にほぼ同じ場所に位置するものの、特にカマイルカは遺伝的に大きく異なることが分かった。また、東釧路貝塚でのイルカ漁はおよそ4200年前に終了し、幣舞遺跡の場所で再開するまでの1000年ほどにわたり、イルカの骨が存在しない空白期間が見つかった。

 この時期は、エジプト古王国の崩壊や青森の三内丸山古墳放棄の原因といわれる世界規模の急激な寒冷化が起きた「4200年前イベント」と重なることから、釧路でも大きな影響があったことが考えられる。

 岸田教授は「気候変動でイルカや他の魚介類が取れなくなったため、人はやむを得ず東釧路貝塚を放棄して、より内陸部に移住したのでは」と推測するとともに、「こうした研究を積み重ね、日本列島の持つ本来の生物多様性の姿、いわば日本の生物相の『原風景』を解明していきたい」と話している。

 釧路市立博物館では、研究論文の内容や道東の縄文時代を紹介する企画展「道東考古~縄文の世界~」を3月22日から6月29日まで開催する。

[写真/東釧路貝塚から出土した5300年ほど前のカマイルカの椎骨。左側の切り欠けはDNA抽出のための小片を切り取った跡(岸田教授提供)]


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